サンクコストのお話

「いかなる時でも過去にとらわれてはいけない。人間には前に進むことしか許されていないのだから―――」


ケース(1)

野球のチケットが2,000円で売られていました。

あなたは最大3,000円払っても野球を見に行きたいと考えており、前日に1枚チケットを買いました。
しかし当日になって買ったチケットをなくしてしまいます。

さて、あなたは野球を見るためにもう2,000円払って野球を見るでしょうか?


ケース(1)の解説

チケットをなくした後、もう2,000円払って野球を見るってことは、4,000円のチケットを買って野球を見るのと同じですね。

「3,000円までしか払いたくないものに対して4,000円払う」のだから、1,000円損するわけです。だからこのチケットを買わないんじゃないか?と考えるかも知れません。

しかし、チケットを無くしたままでは、チケット代2,000円を丸々損してしまいます。
1,000円損と2,000円損だったらどっちを選びますか?と聞かれたら、当然損が少ない方を選びますよね。つまり、もう2,000円払ってチケットを購入したほうが良いわけです。


しかし、次のケースのときはどうでしょうか?

ケース(2)

野球のチケットが2,000円で売られていました。

あなたは野球があまり好きではなく、チケットのために1,500円までしか払いたくありません。しかし友人の「一緒に見に行こう」という強い希望により、仕方なくこのチケットを1枚買うことにしました。

しかし当日になって、あなたは買ったチケットをなくしてしまいます。

さて、あなたは野球を見るためにもう2,000円払って野球を見るでしょうか?


ケース(2)の解説

先ほどと同じように考えると、現状のチケットをなくしたままだと2,000円損。

もう2,000円払って野球を見に行くのは、「1,500円しか払いたくないのに全部で4,000円払う」わけだから、2,500円損。

つまりこの場合は、友人を裏切ってチケットを買わないことが望ましいことになります。(友人を考慮に入れなければ…ね。)


サンクコスト

上のケースは"サンクコスト"に関係した問題です。

サンクコストとは、「過去の投資のうち絶対に戻ってこない、回収不可能な費用」のことを言い、埋没費用とも呼ばれます。

この場合のサンクコストとは、最初に払った2,000円のことを指しています。「回収不可能」というのは、チケットを無くして払い戻しも出来ない今、2,000円を取り返す手段が無いためです。



結論から言えば、なにか投資を行うときは今まで払った費用(サンクコスト)のことを考慮に入れてはいけません。
何故ならば、これからどう行動しようが、既に費用を払ったことに変わりがないからです。

これは、数式で表すことにより理解が容易くできます。
自分の利得を、"チケットに対する価値"と"購入費用"の差として定義すると、ケース(2)における利得は次のようになります。

■チケットを再購入しない場合
−2,000円(埋没費用)
■チケットを再購入する場合
−2,000円(埋没費用)−2,000円(再購入代)+1,500円(この人のチケットに対する価値)=−2,500円

ケース(2)の場合、新たにチケットを購入してもさらに500円損(1,500円−2,000円)をするだけで、いたずらに損を増やすだけなのです。
(1)の例だったら、もう1枚チケットを買って野球を見ることによって1,000円得をするわけですから、最初に払った2,000円の一部を取り戻せるのですが。

そして、どちらの場合にも"−2,000円(埋没費用)"が式の中に含まれていることに注意してください。 つまり、双方の場合を比較するとき、この埋没費用を無視して考えて差し支えないという事になります。

サンクコストの錯覚

現実世界では、たとえばケース(2)の例だと、「せっかく2,000円払ったんだから、このままだとあの2,000円が無駄になる。そうしないためにもチケットを買おう」とか、サンクコストを考慮に入れてしまったために、非合理的な行動を取ってしまうケースがよく見受けられます。

ここで間違っているのは、「このままだとあの2,000円が無駄になる。そうしないためにも・・・」という考え方です。

このように、既に支出した金額が回収不可能なのにも関わらず、追加投資することで回収できると錯覚することを、サンクコストの錯覚(またはサンクコスト効果)などと言います。

確かに再投資することで過去の埋没費用が"活かされる"ようにも思いますが、それは気分的な問題に過ぎず、経済的には非合理的な行動です。


つまり、新たに投資すると損をするならば、今まで払った費用に関係なく投資しないのが合理的な行動と言えます。

「今まで払った費用に関係なく」ということで、先ほど述べた「投資を行うときは、今まで払った費用(サンクコスト)のことを考慮に入れてはいけない」というのが理解できると思います。

具体的事例

しかし現実世界では、例えば公共事業について、サンクコストを考慮に入れてしまったがために「せっかくここまで作ったのだから」という理由だけで無駄な事業を繰り返すケースが見受けられます。

例えばこんな例。

リゾートを立てるべく、総費用15億円の公共事業を進行中で、現在までに8億円まで投資しています。

開発当初は15億円以上の収益が見込まれていたのですが、近くに新しいリゾートがオープンしたため、見込まれる収益は一気に5億円まで減ってしまいました。

さて、このリゾート開発は継続すべきでしょうか?ただし開発中止には、撤去費用として1億円がかかるとします。


これも「今まで8億円かけたんだから、ここで辞めたらあの8億円が・・・」と考えたらアウトです。

何故ならば、今から残りの7億円を投資しても、見込まれる収益が5億円だから。追加投資はさらに2億円損するだけで、「8億円は一部でも回収できない」訳です。

それに対して開発を中止すれば、撤去費用の1億円だけの損で済みます。よって開発を中止することが望ましくなります。


また現実世界ではこういったお金の費用に関することだけではなく、時間的な費用だったり、努力・苦労といった苦役的な費用において「サンクコストの錯覚」が起きている場合もあるでしょう。

さて、あなたはサンクコストの錯覚に陥ってはいませんか?

関連:サンクコストと時間非整合性

First Written: 2007.06.22
Last Modified: 2009.09.30
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